偽装婚約~秘密の契約~
『晴弥様と…話し合ってください』
瑞季さんはそう言って10メートルほど先にいる晴弥に目を走らす。
「イヤです。
それにアイツと話し合うことなんて…もうないです」
だって、契約は終わったんだもん。
ちゃんと、お互いが了承して、契約は…さっき終わったんだもん。
なのに…今さら、いったい何を話し合うの?
いい加減、腹をくくればいいものを
あたしのプライドがそれを許してはくれず、逃げようと必死で瑞季さんの力に抵抗する。
すると晴弥が1歩1歩、ゆっくりとこちらへ歩き出した。
「お願い…お願いだから…瑞季さん…
その手…離して…お願い…」
涙って、1日でこんなにも出るものなの?
思わず、そんな疑問が浮かぶ。
だってさっき、あんなにも泣いたのに、また、涙が溢れてくるんだもん。
「あたし…もう…日本に帰る…ん…です…
だから…その手…離して…く…だ…さい…」
周りの人たちは何事かとザワザワしている。
それもそうだろう。
こんなに人の行き交う場所で、
1人の日本人が泣きじゃくり、
2人の日本人は誰もの目をひくほどのイケメンで。
これを見ずには帰れない、
と言わんばかりに人が多くなっていく。
もちろん、泣いているあたしはそんなこと、知らなかったんだけど。