偽装婚約~秘密の契約~
『……沙羅』
気づけば晴弥が目の前に立っていた。
額に浮かんだ大量の汗。
あたしのために…走ってくれたの?
そんなことを思って首を横に振る。
そんなワケ…ないか。
『沙羅…俺…「何?あたし、忘れ物でもした?」
溢れ出した涙を堪え、笑顔を浮かべる。
あえて晴弥の言葉を遮ったのはその先を、聞きたくなかったから。
『忘れ物…?
ああ、したよ』
予想外の返事にあたしは一瞬、考え込む。
だってあたし、何もホテルに忘れ物なんてしてないんだもん。
「わざわざ届けてくれたの?
ありがとう、晴弥」
いつの間にか、あたしと晴弥の周りから人はいなくなっていた。
でも数メートル離れたところには大量の人。
どうやらあたしたち2人はたくさんの人に囲まれているらしい。
そりゃあそうね。
これ、ヘタなドラマより、全然面白いと思うわ。
あ、でも日本語、分からないからなんとも言えないね。