偽装婚約~秘密の契約~
『かしこまりました』
瑞季さんはあたしの腕を掴む。
『沙羅様』
そう言われてもあたしは動かなかった。
ただ、晴弥を睨んでいた。
その間も零れる涙。
瑞季さんはあたしを抱える。
その腕の中で暴れるあたし。
まだ何も、聞いてない。
アイツの口から、何も聞いてない。
「お願い!離して、瑞季さん!
離してよ!!!」
瑞季さんはそれでも離してくれない。
『瑞季、沙羅が落ち着くまで部屋から出すな』
そんな冷酷な言葉はあたしを余計に興奮させた。
「ふざけないで!
どうしてあんたはそうやっていつも上目線なの!?
瑞季さん!降ろしてよ!
まだ、まだ…アイツに話があるの!」
でも瑞季さんはそのままあたしを部屋へ入れた。
そして鍵をして、ドアの前に立つ瑞季さん。
「お願いっ!
聞かなきゃ…ダメなことが…あるのっ…!」
涙のせいで瑞季さんがどんな表情をしているのか分からない。
「…なんでなの…っ!」
そんなあたしの声は、晴弥に届くことなく、虚しく消えていった