偽装婚約~秘密の契約~
「……晴弥」
隣の部屋をノックもなしに開けた。
晴弥はベットに寝転がり、本を読んでいた。
『勝手に入ってくるな、って言っただろ』
案の定、そんな文句とともに鋭い視線が突き刺さる。
あたしはお構いなしに晴弥に近づく。
晴弥は呆れたように溜め息をついている。
「…あたし…あたし…何も知らなくて…その…」
ごめん、たったそれだけの言葉が出てこなかった。
代わりに、止まったはずの涙が溢れ出す。
あたし、無意識のうちに晴弥を傷つけたのかな。
晴弥はあたしのために、洋介に頭を下げてくれた。
なのにあたしは、晴弥に酷い言葉を浴びせてばっかりで。
言わなきゃいけない言葉があるのに、涙が邪魔をする。
『泣くな、沙羅』
晴弥はそう言って、指で涙を拭う。
そして髪の毛を撫で、あたしの頬に手を当てる。
だんだんと近づいて来る晴弥の顔。
自然と閉じる目。
知らない間に、あたしは晴弥を受け入れ始めていた。
こうやって、たまに優しくしたりするから。
だから、晴弥をキライになれないんだと、そのとき初めて気づいた。
それと同時に、晴弥はあたしの唇にそっと優しく触れた。