スタンド・アローン

「ぬう。」

 思ったより平穏に日が経ち、とある日の体育。

 ソフトボールをやることになったんだが、ポジション割りで一悶着起きた。

 揃って花形のピッチャーをやりたがるもんだから、なかなか配置が決まらない。

 やれやれと思いながら、俺はマスクを手に取る。

 いかに高校の授業とはいえ、ボールが顔に当たると危険なのでキャッチャーはマスクを着ける。

 いや実際、ソフトボール当たると痛いんだ。

 しかし…ちょっとマスク小さい。まあ、女子用だろうから仕方ないか。

 プロテクターを着けている間も、ピッチャーの取り合いは続いていた。

 そこで、俺はその中の一人にボールを投げる。

「大滝、投げてみろ」

「え?」

 ボールを受け取った当の本人は、呆気にとられてポカンとしている。

 大滝瑞季。

 海淵で数少ない。俺が会う前から知っていた名前だ。

 北辰にいた時の先輩で野球部の顔だった大滝猛の妹で、当時からソフトボール界で注目を浴びていた。

 もっとも、かなりの小心者でランナーを背負った場面には弱かったが。

 まあ、それでも素人よりはマシだろうと思う。

「いから、構えた所に投げてみろ」

 俺は距離を取って腰を下ろすと、ミットを左脇あたりに構える。

 右打者から見れば、内角低めだ。

 左サイドスローの大滝にとっては、それほど投げにくいコースじゃない。
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