ディテクティブ・ワンダー
今年に入って、孝は祖父の遺言状を読むこととなった。孝が16になるその日に封切りをしてほしいと残されたものだった。

その中にこうあった。

『東京某所にて事務所を構えるマツイ探偵事務所に勤めよ』
要約するとそんな内容だった。
文面から察するに、何やら祖父と深い関わりのある探偵事務所らしい。
家族は皆、一様に動揺した。
堅実であった禄郎が探偵と関わりがあるとは誰もが信じられなかったからだ。
しかし、孝の父、英朔だけは何かを察したらしく、黙って孝の東京行きを勧めた。
そうして孝は家族から離れ、仙台から東京へ来ることとなった。



夏も間近という頃合である。

件の探偵事務所には英朔が前もって電話を入れている。
今日の昼には着く予定だと先方には伝えてた。
東京の郊外、新宿駅からさらに西へ行った駅へついたのは12時を過ぎた辺りだった。
キャリーバックを引っ張ってきた道のりだったが、人の多い東京ではなんら目立つこともない。郊外の駅に着いてからもさして違和感は無かった。
バックの中には旅に必要な物がぎっしり詰まっていたが、旅慣れた孝はバックが膨らまないよう中身を丁寧に詰め込んでいて、とてもそんなに入っているようには見えない。
ただ、重要な書類や貴重品だけはショルダーバックに入れて肩から下げていた。重要な書類とは遺言状と一緒にあった紹介状と急拵えの履歴書だった。
孝は、祖父の口利きがあったとしても、正式な手続きを踏んで就職したいと思っていた。
小早川の一族と言えば、相手は甘い顔をして向かえ入れてくれるかもしれないが、孝はそれが嫌だった。
それは、父が祖父の威を借りず就職したように、自分もそうでありたいと、ずっと思ってきたからだ。
それに、まだ未成年だと言うこともある。
心のどこかで舐められたくないという、矜恃があるからかもしれない。
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