ディテクティブ・ワンダー
なにしろ、孝にはその会社、マツイ探偵事務所の全貌が見えていないのだ。
多少の不安はある。
禄郎とは余程懇意にしていたのか、住まいや生活の保障はしてくれるというのだから、親切なことだが、胡散臭さは拭えない。
小さな事務所だという。
地図を頼りに、孝は古いビルの前立った。
このビルの三階に事務所があるという。
孝は住所を何度も確認し、建物の入り口の小さな看板を目にしビル名を読み取ると、漸く確信をもって、中に入った。
奥に小さなエレベーターがあり、それに乗りこんで、三階を押した。
ガタッと音がしてエレベーターが動き出す。
相当とまでは言わないが、ビルの外装にみあったよう、エレベーターも旧式のようだ。
三階に着くとすぐ、目の前に木製の扉が見えた。
それはもう、古い探偵小説にでも出てきそうなそれこそ、世間に広まる探偵事務所然とした扉だった。
孝は恐る恐るノブに手をかけた。
それから、少し躊躇って、ノックする。
返事を待たずに中に入った。

――先方には連絡してあるんだ。きっと大丈夫。

孝は自分にそういい聞かせた。
そして、視界が開けた。
思っていたよりも明るい。外の光が入ってきている。
カウンターらしき物はなく、目の前は白の仕切りで区切られている。
目の前が開けたと思ったのは気のせいだったらしい。
「すみません。今日、伺うと連絡していた小早川です」

僅だが奥の方に人の気配を感じた。
耳をすますとパソコンのキーを叩く音がする。

一拍二拍と返事はなかった。

そして、女性の軽やかな声が上がった。

「ごめん。今ちょっと手がはなせないから奥に来てもらえる?」

やけに親しげな口調だった。
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