ディテクティブ・ワンダー
いい年した大人がするリアクションじゃない。
引きつった顔で孝は思った。
「――あの……あなたは?」
「ああ、悪い悪い。俺は真対東(マツイアズマ)。この事務所の社長だ」
「しゃ、社長!?」
「そう。よろしく!コバヤシ君」
にっこり笑ったその顔は形容が過ぎるかもしれないが、やっぱり少年のようだと孝は思った。
それから、突然、興味を失ったかのように、真対東は紹介状と履歴書を机の上にほおった。
納得できないまま、孝はとりあえず形ばかりの挨拶をしておこうと口を開くことにした。
「若輩者ですがなにとぞよろしくお願いします。不躾ですが、真対さんのことは祖父からは何も聞かされてないのです。祖父とはどのようなご関係だったのですか?」
「留学していたのにずいぶん流暢な日本語を話すんだね。おっとこれは失礼。ええっと、禄郎さんとの関係でしたね。生前、目をかけてもらったんですよ。それじゃだめかな?」
「いえ、多くは聞きませんよ」
神経を逆撫でするような話口だ。
それにしても、なぜ、東は孝のことを知っているのか。
しかしその疑問もすぐに払拭された。
生前、祖父と懇意にしていたのなら、時折、孫の話が出ていてもおかしくはない。
「東。またそういうだらしない格好で」
孝の後ろから声がした。
先に聞いた女性の声だ。
嗜めるような声。
孝は振り返った。
立っていたのは長身の美人だった。
肩で切り揃えた黒い髪。黒のスーツでかっちりキメている。
素振りで察するに、白いテーブルに着くことを勧めているらしい。
テーブルの上には湯気を立てた茶碗が添えてある。
「社長が失礼しました。小早川くん。ごめんなさいね。変人の相手は疲れたでしょ?」
「酷い言いようだなぁ。姉さん」
東は薄ら笑いを浮かべてそう言った。
彼なりの苦笑であるらしい。
「ご姉弟なんですか?」
「ええ。不肖の弟ですのよ。私は真対英里。本業はフリーのライターなんだけど、事務所の運営も手伝ってるの。よろしくね」
英里は人当たりのいい笑みを浮かべ、良く通る声で言った。
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