ディテクティブ・ワンダー
「ジャーナリスト兼探偵ですか。まるで、小説の世界ですね」
「でも、本業はジャーナリストだから。私は時間に余裕ができたときに手伝いにきてるだけ」
「そうなんですか。ちょっと残念だなぁ。実は僕、あなたの書く文章の大ファンなんですよ。できればいろいろと話を聞きたいと思っていたのですが…」

「コバヤシ少年!弟の目の前で姉を口説かないように!」

それまでぼーっと椅子に座っていた東は立ち上がって、ビシッと効果音がなりそうなほど勢いよく孝を指差した。

「そんなつもりじゃ…」

孝は顔を赤くしてうつ向いた。

そして思った。

この人なんか苦手だ。

「こらこら東。そうやって未成年をいじめない!」

「はいはい。姉上。冗談ですよー」

英里にいさめられ、東は再び着席した。

「ありがとう。孝くん」

孝の方を向いて、笑顔で答えた英里の表情は美しかった。
西洋系美人の東に比べて、英里は日本美人然としている。
孝はそう思った。

ちょうどその時、室内に誰か入ってきた。
孝の耳にせわしくドアを開け、駆ける足音が聞こえた。
迷路のような白い布の仕切りの中を走り抜け、足音はまっすぐこちらに向かってきた。

「すいません!社長!遅くなりました!」

息もたえだえ、若い男の声。

「珠洲(スズ)くん。こんにちは。ずいぶん遅かったわね」

「すいません。英里さん。道が混んでいまして」

男は悪びれずにそう答えた。

丸顔で人当たりの良さそうな表情の男だ。

「孝くん。従業員の珠洲正宗くんよ」
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