ディテクティブ・ワンダー
「はじめまして。小早川孝です。本日からお世話になります」

椅子から立ち上がって、孝は軽く礼した。

「よろ〜。君が噂のねぇ。小早川建設の御曹司ってやつに当たるのかなぁ?」

「違いますよ。御曹司と呼ばれているのはいとこの方です。現社長の息子ですよ」

孝はにこやかに答えた。
この手の質問には慣れている。
孝の父は実家を出て教師をしているので、現在、小早川家の当主は次男の英光なのだ。
父のにはもう一人弟がいるのだが、三男はなかなか本家に顔を見せに個ない。いわゆる変わり者だ。


ともあれ、長男の息子として、孝はいつも外で会う大人たちにお坊っちゃん扱いをされてきてはいたが、実際は小早川の家を離れていた身なので、とくに豪勢な生活をしてきたという思いはない。

本家であろうと、別段、豪奢な暮らしをしているわけではない。

祖父が質素倹約の精神を貫いていたからだった。

贅沢をさせてもらったのはただ一度、海外留学させてもらったことだけだ。
だけ、といっても、なかなか突飛な贅沢だろう。

「ふぅん。そうなの。ま、よろしくね。孝くんでいいよな」

珠洲の言葉は、軽い口調に関わらず、好感を持てる挨拶だった。

「お好きなように…」

「いや!違うぞ!岡ちゃん!彼はコバヤシくんだ。探偵助手の少年と言えば、ズバリコバヤシくんでしょう!」

またも立ち上がって、胸をそらしながら高らかに宣言した。

――こじつけも甚だしい…さっき略称って言ったのに…それがやりたかったんじゃないのか?

孝はそう思った。


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