Crazy heart!
屋上のドアを開けた。
屋上に来るのは初めてだ。
風が軽く吹いていた。
「……………」
軽く、それらしいやつがいないか探すが、見つからない。
「あ、橘くん」
「!」
上から声が聞こえた。
声のした方を見れば、
「お前か?俺の携帯とったの」
朝、遅刻していた、メガネの女がひょっこり頭を出し、俺を覗いていた。
「そうだよ。ごめんね、時間とらせちゃって」
学校では、皆、俺を恐がって話し掛けないのに、こいつは少しも怯んでいないみたいだ。
「謝るんだったら最初っからすんな。さっさと返せ」
俺は、そいつがいる上に向かって、手を出した。
「いや、私ね、橘くんと少し話したいことがあるの。だから、こっちまで上がってきてくんないかな?」
「俺はお前に話すことなんかねえ。返せ」
「やだ」
女はそう言うと、顔を引っ込めた。
「おい、なにふざけてんだよ?」
姿が見えなくなった女に向かって話し掛ける。
返答はなく、風の通りすぎる音がむなしく聞こえた。
無視かよ…………
「…帰る」
「えっ!?帰んの!?」
帰ると言いだした途端、顔を出して返事をした。
「別に携帯くれえ、くれてやるよ。」
携帯にはロックもかけてあるから、乱用されることもまず無いだろう。
「じゃーな」
「………っ、あんた、ホストなんでしょ!?」
「!?」
掴みかけていたドアへの手が止まった。
「…………お前、なんで……、」
「橘くん」
それまで間抜けに見えていた女は、不敵そうに笑った。
「…話したいことがあるの…。こっちまで上がってきてくれないかな?」
「…………チッ」