キミと僕の記憶
KISS
あまり回転してくれない頭でも、何があったかすぐに分かった。
押されて、プールに突き飛ばされて、
泳げない、と分かっていながら置き去りにされた。
誰が私を押したのか?
キャプテンか他の先輩か、それは分からない。
放っておかれたら死んでいたかも知れない私を
助けてくれたのは仁科だった。
麻木センパイじゃなく、
何であそこに居たかのか分からない、仁科に。
――命を助けられた。
放課後の保健室には鍵は掛かっていなかったものの、先生は居なかった。
机には帰宅しましたの三角ポール。
薬品棚には鍵。
こういう場合緊急時は他の先生を呼びに行くことになっている。
休んだり、怪我の手当て程度は連絡帳に記入すれば自由にしていいことになっていた。
私は仁科に支えられながら椅子に腰掛けた。
「横になった方いいよな?僕のジャージ取ってくるからちょっと待ってて?」
仁科は乾いたタオルを私に被せ保健室を出て行った。
一人静かになった保健室は、沈む夕日に照らされてオレンジに光っている。
シーンと耳が痛いくらいの空間で、ヒックとしゃくり上げる声が聞こえた。
私は無意識に両目からとめどない涙を流していた。
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