キミと僕の記憶
タオルで必死に顔を拭いた。
それでも涙は止まらなかった。
声を殺して泣きつくし、仁科が戻るまで泣き止もうと思った。
事が事だけに、多分先生も連れて戻ってくるだろう。
不意に、何の音もすること無く、後ろからタオルで覆われた頭が抱きしめられた。
ビクッとしたけど仁科だと塗れた腕で分かった。
「美月ちゃん、大丈夫?
我慢しないで、声出して泣いてもいんだよ?」
くぐもった声が耳のすぐ側で聞こえた。
私はこく、と頷いたけど、仁科が来たら涙はピタッと止まってた。
少し迷って、仁科に言うべき言葉を考える。
「――あの、さ……ありがとう…」
結局ただのお礼しか出てこない。
あんたの言うとおりだったね、
とか
命の恩人だよ、なんて。
うそ臭くて言えなかった。
私は頬に残る涙を拭いた。
「もう、大丈夫」
振り向くと、仁科は一瞬疑うように私の顔を覗き込んだけど
すぐにホッとため息をついた。
「よかった。これに着替えて?風邪引いたらダメだし」
渡されたのは男子の青いジャージだ。
仁科のだ。
だけど仁科だってズブ濡れなのだ。
「でも、仁科も……」
「僕はTシャツあるしズボンは捲れば気にならないから」
強引にベットのカーテンが閉められ押し込められたので、私は仕方なくへばり付いて気持ち悪いピンクのジャージを脱いだ。
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