キミと僕の記憶
「いや、さっきプールに行ったら水張り終わってたからさぁ。
でも顧問の谷川が部員はランニング普通にしてたって言うし。
まさか藤井が1人で掃除したんじゃないかと思って……」
え?
私は数秒まばたきを繰り返し考えこんだ。
センパイは今日のことを知ってるワケじゃない……?
そりゃそうだ。
私と仁科はセンパイに連絡してないし
キャプテン達が自白するワケもない。
それにさっきプールを見たって……
今まで学校に居たんだろうか?
「――れ?藤井?
もしもーし」
「あっハイ!あの、実はやっぱりキャプテンに怒られちゃいまして、でも部活の時間内に超頑張って終わらせたんです!
えと、細かい所はまだなんですけど……」
「マジかぁ〜!
ごめんなぁ〜!オレも今日散々でさぁ、提出期限の課題が無くなって今までかかって再提出!
オレが行ければ全員にやらせたのに、ホントにごめんな?」
課題が……
それって……
私の脳裏に勝ち誇ったキャプテンの顔が浮かぶ。
「いえ、案外早く終わりましたし。
私にやれるのは掃除くらいですから」
答えながら、私はグルグル頭の中でシュミレーションをする。
どうする?
センパイに今日のことを洗いざらい話すべき?
本当なら
すべきなのは分かってる。
けれど
何かがブレーキをかける。
「ありがとな?
でもそんな風に思うなよ…
藤井が居てくれるだけで中学の時凄く心強かったし、助かってたし。
それは今もな。
大会始まってみろよ、藤井に牛耳られるかもな!」
アハハ、と明るい笑い声が聞こえてきた。
自然と私の顔もほころぶ。
センパイはホントに優しくて、大人だなぁって思う。
誰にでもそうなのが寂しく感じることもあったけど、今日は何故かその平等な優しさに安心する。
「ありがとうございます。明日からも頑張ります!」
本心からそう言えた私に、よろしくな、とセンパイが答えて電話は切れた。
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