攻防戦‐KisS
「はい、あーん」

「いや、自分で食べれるから」


口元にクッキーをひとかけら運ばれる。

どうしても食べさせたかったらしい。


お前は新妻か。


「あーん」

「…」


満面の笑みで繰り返す透。

が、私もここで許したら今後も人前で要求されそうなので、無言で拒否する。


「…口移しがいい?」

「食べます」


笑顔の脅しは恐ろしかった。
透ならやりかねない。

その指からクッキーをくわえ取る。


もういたわってなどと言わないようにしよう。
そう心に決めながら。
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