いなほす
田中は寝るのも忘れていた。
「条件は30歳まで。お酒が好きな人、人と接するのが好きな人。経験不問。」
田中に当て嵌まるのは歳とお酒だけ。人と付き合うのが苦手なのは田中にとっては眼中にない。早く今の仕事をやめて好きなお酒が飲めて大金を手に入れることしか考えてなかった。
「10時だ。」
田中は携帯電話を開き掲載されている番号にかけた。
「もしもし。」
相手が出た。声からして若い男のようだ。
「もしもし。あの、ホスト募集の求人を見てお電話したのですが?」
「募集ね。そうだな、11時に来て。」
「はい。11時に伺います。」
「履歴書とかいいから。じゃ、11時に。」
電話は切れた。呆気ない気がするがとりあえずは面接の予定ができた。田中は何年前かに買ったスーツを着た。合格したらどうする?以外にうまくいくかもしれない。顔は普通より少し上。中の上辺りだ。背も176あり体型も痩せている。ホストに向いているかもしれない。そんな勘違いをしながら面接会場に向かう。
「ここでいいよな?」
田中は悩んでいた。想像では派手な店か大きなビルの一室だと思っていたのに着いた所は普通の家だった。表札には山田の文字が書かれていた。
「住所は合ってる。」
田中はチャイムを押した。少し経つと玄関から若い男が出て来た。
「先程、電話した者ですが。」
「中に入って。」
田中は男に茶の間ぽい場所に案内された。
「簡単な面接します。名前と歳をまず教えて下さい。」
「はい。田中智司。25歳です。」
男は紙に名前と歳を書いた。静かすぎる面接に田中は緊張していた。
「今は仕事してる?」
「はい。新聞配達を。」
「すぐに辞められる?」
「はい。大丈夫です。」
「じゃ、明日から働いてもらうから。そうだな、夜の6時にここに来て。服装は今日みたいなスーツでいいから。よろしく。」
面接時間はたったの5分。名前と歳を言っただけで合格してしまった。
「よろしくお願いします。」
田中は頭を深く下げた。こうして面接は無事に終わった。でも、合格したけどホストの仕事はどんなことをやるのかわからない。自分でも出来るのか心配だった。
「ふ〜う。合格か。大丈夫かな?」
ホストになった実感がわかない。まだ新聞配達の人だと田中は思っていた。
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