赤い半纏
「よかった。誰か人に出会えなかったら、死ぬとこでした」
彼がぽつり、と出した一言が妙に重い。
冗談に感じられない所がまた恐ろしい。
「そうですか。では、私は命の恩人ですね?」
調子こいて冗談まじりで言ってみた。
彼はかわらない笑顔のままで、
「そうですね。本当に、感謝しています」と、言った。
すぐに、曲がり角にぶつかった。
私の家は右に曲がるとある。
「えっと、私は右の道を行こうと思うのですが・・・。あなたはどうします?」
「私は左の道なんですが、困りましたね。雨を受けると、ちょっと危ないのですが」
何が危ないんだ。非常に気になる。
でも、そう言われたら傘を貸さないわけにはいかない。
「この唐傘を貸しましょう。ちょっと重いですけど、防水性は他社のメーカーの中でもベスト1を誇る性能ですよ」
「ふふっ、ではその傘少しお借りします。代わりにとはいえないのですが、この防水性も耐久性もない傘をどうぞ。あるのは吸湿性ぐらいですかね」
差し出された防水性も耐久性もない傘とかやらは、大きなハンカチーフだった。薄手の物で、確かにそのとおりの性能だろう。
耐久性は、それ自体無い気がするけど。