Lie & Truth ―君色番外編―
彼女は怖い夢でも見ているのか、酷く魘されていた。
身体中は汗ばんで
時々何かを掴むように手を伸ばす。
そして…
「……っ翔……」
その名前をうわごとのように何度も何度も呼び続けていた。
聞いてはいけないものを聞いてしまった気分になる。
俺が悪いわけじゃないのに、勝手に罪悪感で胸を痛めていた。
少しでも彼女の心が落ち着けばと
震えるその手をそっと握ってやる。
「……翔…?」
朦朧とする意識の中で彼女は俺を翔と呼んだ。
違うよ。
本当は否定したかった。
だけど、それをしてしまったら、留美が壊れてしまうような気がして怖かったから、俺は何も言わずに握り締めた手に力を入れる。
すると、彼女は安心したようにまたスーッと眠りについたのだった。
翔って…誰だろう。
やっぱり、恋人か?
こころなしか心が落胆しているような気がしたけれど
気づかないフリをした。
泥沼はごめんだからだ。