いばら姫
複雑な気持ちのままマフィンを口に運ぶ。


パティシエを目指して専門学校に通っている梨華の作品だけに、そこらへんで売られているものよりそれははるかに美味しかった。



「おいし?」

「ん、最高!」


甘いものをもとより好まない京平も、昔からこのマフィンだけは好きだった。

甘すぎずしつこすぎずのアッサリした味がやみつきになる。


美味しそうに次から次へとマフィンを平らげる京平の姿を見て梨華はよかったーと嬉しそうに笑った。



いつからだろうか、梨華をただの幼なじみから一人の女として見るようになったのは…。

何も考えずに自然体で一緒にいられたあの頃が懐かしい。


ただ、成長と共に変わっていくのが怖かっただけなのかもしれない、

恋と呼ぶにはあまりに未熟な感情。


だけど

暖かくてどこかホッとする、特別な感情。



「ねっ、所で文化祭のチケット余ってないの?去年いけなかったから今年は行こうかなって思って」


京平は鳩が豆鉄砲をくらったような顔で食べるのをやめ、梨華を見た。

去年は散々誘っても来てくれなかっというのに、一体どういう風の吹き回しなのか。


「あ…あぁ、何とかなると思うけど…午後か午前かはこっちで決めていい?」

「うん、大丈夫。学校案内お願いねー」


ルンルン気分で鼻歌を歌いながら手を振って帰っていく梨華の様子を、

なんだ?あいつ…。

と、京平は疑念の目で見つめていた。
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