いばら姫
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気がついたら茨は教室で一人、店番をしていた。

あれからどうやって戻ってきたのかも思い出せない。

それより本来、あと四人はいるはずの当番の姿が消えている事に一番疑問を感じた。


しかしそれを追求するのも面倒だし、お客さんも入っていないし、むしろもうすぐ交代の時間だし


どうでもよく思えた。



交代の時間か…。


茨はため息をつきながら壁にかかっている時計を見つめる。

午後にはあれだけ楽しみにしていたライブが待っているというのに、気分が浮かない。


理由は自分でも痛いほどにわかっていた。


ライブは見たい。

しかし、京平とあの女の人の仲のいい所を見ると、胸が裂けてしまいそうになる。

そんな相反する二つの気持ちの間で思い悩んでいたのだ。




―ガラッ―


教室のドアが突然誰かによって開かれる。



「遅れてごめんねー!って…あれ?一条さん一人なのー?」


教室へ入ってきたのは午後の店番の人たち。

クラスでも目立っている仲良し三人組だった。


「あ…うん。なんか…いつの間にかこんな事に」


クラスメートと言っても普段は会話を交わす事のない相手に、緊張のせいか口がうまくまわらない。

いや、原因はそれだけじゃない。

暇つぶしの標的にされて陰口を叩かれたり、軽いいじめを受けていた事もあり、彼女達を目の前にするとやはり体が強張るのだった。


「ねっ、所でさ、お願いがあるんだけどぉ!」

「おねがい…?」


茨は嫌な予感がした。


猫撫で声で上目使いをしながら擦り寄ってくるわりに

相手のその目は笑っていない。


つまりお願いというよりは強制…に近く、茨に拒否権は存在しないという事を表しているのだ。

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