いばら姫
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「お疲れーっ!」

ライブ終了と同時にテンションMAXな声が差し入れと共に楽屋へ入ってきた。


「なんだリカかよ…」

「あたしで悪かったわね!…てか、どーしたの?午後の部終了したって言うのに、浮かない顔して」


もっと達成感いっぱいでさぞかしいい気分になっている事だろう思っていたので、梨華は拍子ぬけした様子だった。


「べつに普通だよ」


そっけなく返す京平。

しかし付き合いの長い幼なじみの事はよく分かる。

苛立ちを押し殺しているように見えるのも気のせいではないはずだ。


「あれだろ、姫の姿が見えないもんだからご機嫌ななめなんだろ、王子様は」

「姫?」

「余計な事言うなよハル!」


梨華はハルの漏らした“姫”という言葉が引っ掛かり、顔をしかめた。


女の直感が

“その女は要注意だ”

と言っている。



(…………まさかね)


見た目によらず一途な京平が自分以外の女を気にするなんてにわかに信じがたい。

しかし現に、こうして彼は自分以外の誰かが一番にここへやってくるのを待っていた。


横目で京平を盗み見ると、その姫とやらが姿を見せないことがそんなにショックなのか無意識にため息をついていた。


(ったく…何なんだよあいつは!)

京平は考えれば考えるほどに募るイライラを足にこめて地面に一定のリズムを刻んでいた。


(来るなって言っても聞かないで付け狙ってたくせに…来いって言ったら来ないのかよ)


梨華と茨の席は一番前の真ん中二席を取っておいた為に穴が空いてれば気づかないはずがない。

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