いばら姫
「何で怒ってんの?」
「別に怒ってなんか…」
「怒ってんじゃん!何でさ、そうやって避けようとするわけ?」
言い掛かりだと言いたい所だが、京平がそう感じたのらきっとそうなのかもしれない。
会いたくないとか話したくないとかそんな事を思っていたわけじゃなく、ただ…やっぱり現実を突き付けられる事が思ってた以上に辛かった。
「……キョン様は私の気持ちに応える気はないんでしょう?
……だったらもう、優しくしないで下さい…」
「え………」
握られていた手から力がわずかに緩まった。
今更何を言ってるんだと思う節もあったけれど、
確かに相手の気持ちを知っていながらいつまでもごまかし続けて一緒にいるというのも酷な話で。
だからと言って彼女の想いを受け止めきれるかどうかというのは正直微妙な所だった。
京平は引き止めていたその手を、ゆっくりと離す。
(それが…やっぱりキョン様の答えなんですね)
枷が外れて自由になった瞬間、茨は再び走り出た。
えぐられたような胸の痛みに堪えつつ
楽しかった一年ちょっとの彼との日々を思い返す。
片想いでも楽しかった
あの頃に戻りたい…。
いつから…こんなに欲
張りになっちゃったんだろう。
キョン様が気にかけてくれただけでも
昔の私からしたらありえないくらい
幸せな事なのに…。
今はそう思えない。
もう、戻れないなら
せめて思い出だけは
綺麗なまま
蓋をして
鍵をかけて
そっと心の奥にしまっておこう。
この…涙と一緒に。