いばら姫
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ガラッ。

忘れ物に気がついて、教室に戻り、入口のドアを開けると

「…………!」

京平の席で突っ伏して眠る茨の姿が目に飛び込んできた。


今は放課後。

教室には二人以外の人の気配はしない。


「……………」


物音を立てないようにそっとそこへ近づいてみる。



…何やってたんだ?
俺の席で…


間違えるほど近くもないし、どちらかと言えば廊下側と窓際という両極端の離れ具合。

相当な馬鹿か間抜けじゃなければ間違えようがない。


「まさか呪いとかかけてたんじゃ…」



こいつならやりかねないと恐怖心が沸き上がり、恐る恐る机の上を覗き込んでみると…。


「ほっ…」


想像していたような魔法陣やら呪文の類は書かれておらず、とりあえず一安心と京平は息をつく。



そして、さらりと垂れる綺麗な茨の黒髪を何気なくかきあげてみると、京平の身体がギクリと強張った。



泣いてたのか…?



優しく手を添えた頬の上には乾いた涙の跡。


それが、京平の事を想って流したものに違いない事はその状況からしても明らかだった。


なんだか

無償に愛しくて

切なくて


跡がのこる頬の上に京平はそっとキスを落とした。



瞬間…。


「キョン…様…?」


王子様のキスで目覚めた姫は驚いたように愛しい彼の名前を呼んだ。


名前を呼ばれただけなのに、悪い事をしてバレた時のような気持ちになった京平は、

「おっ…お、まえっ…起きてたのかよっ!だっ、だ大体そこ俺の席だぞっ!」

恥ずかしさで顔を真っ赤に染めながら罵り声を上げる。

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