いばら姫
「ご…ごめんなさいつ…!」

京平の席に座っていた事にようやく気がついた茨はあわてふためきながら勢いよく立ち上がり、頭を抱えて弱々しく言った。


「私…諦めなきゃいけないのに…っ………やっぱり…好きで…どうしようもなくて…っ」


なんで諦めなきゃいけないと思ったのか聞きたい所だが、おそらく彼女の思う所があるのだろう。

それよりも

茨の気持ちに気付いていながら見ないフリしてきた自分に愛想尽かされたわけじゃないんだという安心感の方が大きかった。


俺も、素直になろう。


「自分から言い出したのに…ほんと、今更何なんだって感じで……んっ」


言葉を最後まで言い終わる前に京平は茨の唇を塞いだ。

カーテンが風に揺られて二人を包めば、まるでその空間だけがスローモーションになっているような錯覚に陥る。


目をむいて固まっている茨の額に自分の額をくっつけて

「……諦めなきゃいいよ」

とびきり甘い声でそう言った。


「え……」

「そばにいろって事」


今までは

それが当たり前だと思ってたんだ。


こうなって初めて気づいたよ。



「やっぱり…お前がいないと落ち着かない」


「……っ」



茨は耳を疑った。

京平が自分を必要としてくれている。

その事実が信じられなくて何度も強く頬をつねる。

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