いばら姫
「べつに。何かあっても俺が後味わりぃし。最近変な事件多いし?」


照れ隠しなのかなんなのか、ふてぶてしくそう言いながら京平は頭の後ろで腕を組む。


「それでも、ありがとうございます」




茨は知っていたのだ。


彼の家が本当は反対方向なのも、自分の家よりずっと遠い事も…。



会話なんていらない。


ただこうして隣を歩いているだけで

いつもと違って見える景色。

いつもより煩く響く鼓動。

いつもより

距離さえも近く感じて

“好きです”

なんて改めて気持ちを伝えたくなってしまう。



「キョン様…」


「なに」



切れ長の、年齢より少しおとなびて見える瞳が、茨だけを捕らえる。



「…やっぱり、なんでもないです」



ちゃんと気持ちを伝えるなら、申し分ないスチュエーションだったに違いない。

だけど
今はまだ

このまま夢のような時間を壊したくなかった。


改めて気持ちを伝えたら

キョン様はどんな顔をするのかな。



きっと

困るんだろうな。



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