色恋花火
そうだよね。

確かに修二の言う通り。


楽しい時は楽しい。

悲しい時は悲しい。

寂しい時は寂しい。


我慢なんかしないで素直にそう言えてたなら…

今あたしは拓馬と一緒に楽しい時間を過ごせていたのかもしれないのに。





「まぁーたそんな死んだ魚みたいな顔して~!」

間延びした声が降ってきたと思ったら、おでこのあたりをピンと何かで弾かれる。

………修二の指だ。


「痛いなー!てか死んだ魚って!」


例えが微妙すぎて

どんな顔だよ!!

と、またごくごく自然にツッコミを入れてしまう。


「笑った顔のが可愛いゆーたやろ?よっしゃ、今日一日俺の前で笑顔以外の顔は禁止や!」

「ええぇっ!?」


正直、失恋したての乙女にその条件は酷すぎる。


「ほら、行くで。今度はグルメツアーや!」


明らかに困っている雰囲気を全面に押し出しているというのにワザと気付かないフリをして

修二はまた鼻歌を歌いながらあたしの手を捕んだたと同時に歩き出した。



…あれ?


そういえば…
修二は何も聞いて来ない。


泣き顔も見られていたはずなのに。


失恋したって気づいてるからあえて何も突っ込んで来ないのか

それとも暇つぶしの相手さえ見つかれば他の事は興味がないのか。


どちらにしても、上手い事地雷を避けながらズンズンと心の中に入ってくる修二の強引さは

淋しかったあたしの心に酷く染みて、すべてを委ねたくなる程に心地良かった。

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