色恋花火

唇があと数ミリ程で重なろうとした、

次の瞬間。


あたしが期待したような柔らかな熱の感触よりも先に、何かを殴り飛ばしたような音と、うっという呻く声とが同時に聞こえて

その正体を確かめようと、あたしはうっすら目を開けてみる。


「拓…馬…?」


そこには肩で荒く息をしながら汗だくになってる拓馬の姿があって

頬を押さえながら倒れ込む修二を物凄い形相で睨みつけていた。


どうしてここに…?

というあたしの呟きは

「人の女に手ぇ出してんじゃねーよ!!」

という拓馬の叫び声によって打ち消される。



ドラマや漫画でも最近は見ないような修羅場に身を萎縮させるあたし。

ガシッと力強く掴まれた手は、拓馬の怒りを汲み取って生理的に震えた気がした。



「帰るぞ!」

「ちょ…ちょっと!痛いよ!」


所有物を取り返すように我が物顔でぐいぐいっと腕を引っ張っられれば、肩の付け根にピシッとした痛みが走る。

あたしは圧倒的な力の差を見せ付けるその手を振りほどこうと必死にもがいた。



「大体、何ですぐ帰んなかったんだよ!?こんな時間まで女がフラフラしやがって!バカじゃねーの!?」

「なっ…!」


…んであたしが怒られなきゃなんないの!?

約束すっぽかしたのはどこのどいつよ!?


そう言ってやりたかったけど、どうせまた口で言い負かされて、結局何もいい返せなくなるのがオチだ。

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