色恋花火
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手を繋いで並んで歩くなんてどれくらいぶりだろう?

デートはいつも拓馬の家だし、帰りに送るというジェントルマン精神が皆無な彼とは

二人で外を歩くという状況にあまりなり得ない。


まぁ登下校の時くらいなもんだが

それだっていつも拓馬が2~3センチ先を歩き、あたしがそれに後からついていく形で

もしかしたら今が一番恋人らしい瞬間なのかもしれないと思った。


「…………」

「…………」


会話がないまま

景色だけが足早に移り変わっていく。


別に、騙された事に腹を立てているわけではなく、ただ単純に情けなかったのだ。

ちょっと甘い言葉をかけられて優しくされたくらいでグラッときて

あまつさえ乗り換えてしまおうかと一瞬でも思ってしまっただなんて…。


拓馬にも申し訳なくて

嫌悪に胸が押し潰されそうだった。



「…まぁさ、よかったんじゃねーの?騙される前になんとかなって!」


滅多に怒る事のないあたしがここまで憤慨してる事への驚きと、みじんこ程の人徳が、拓馬にその台詞を言わせたのだろう。

励まされたのなんて一年以上付き合ってて多分初めての事だと思う。


だからこそ
逆に凹むんだ。

いっそ、泣くことも忘れてしまうくらい罵ってくれた方が楽なのに。

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