色恋花火
「花火…見たかったな…」


グスッと鼻をすする音を一定のリズムで刻みながら涙声でそう呟くと、情けない顔を隠すように膝に頭をつけて俯く。

通りすぎる人達の白い視線が突き刺さるのを感じたけど、なかなかその場から動く事ができなくて


そんな自分が凄く惨めで

このまま闇に溶けて消えてしまいたいとさえ思った。








「おねーさんおねーさん!」

―!―


突然背後からひょうきんな声がして

あたしは反射的に声のするほうへ顔を向けた。



「タコ焼き買うてってや~!」



眩しいくらいの笑顔

ゴツゴツとした指輪がいくつもはめられている手でタコ焼きを差し出されると、あたしは涙を拭う事も忘れたまま、声をかけてきた男の人を見上げた。


ふわっとタコ焼き独特のソースの香りが鼻をかすめる。



ぐぅ~…

「!」



おいしそうな匂いに気が緩んだ瞬間、あたしのお腹の虫が大声で鳴いた。


途端に気まずい沈黙が間に流れ、羞恥心で真っ赤になっていく頬をあたしは両手で挟んだ。



は…恥ずかしいっ!!



「はははっ!めっちゃ腹減ってるやん自分」


そこまで笑わなくても…ってくらいの勢いで爆笑してるお兄さんを軽く睨みながら

「そこまで笑わなくても…」

とあたしはふて腐れたように言う。


俯いていたせいかハッキリと見えなかったお兄さんの姿が、その時初めてダイレクトにあたしの視界に入ってきた。


見た目はちょっと怖そうだけど、パンキッシュカジュアルなオシャレな私服はとってもあたし好みで。

濃すぎず薄すぎずの中性的なその顔はおそらく男女問わず8割くらいの人の心を動かしてしまうと思う。



カッコイイ…。



何より見た目からして少し大人びた、2~3コは上だろうと思われる余裕ぶりが更にお兄さんを魅力的に見せているような気がした。
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