色恋花火
「おっちゃん!一回分な!」


修二は腕まくりをしながらプールの前に座るおじさんに100円玉を二枚渡す。


「はい、コレね」


金魚を掬うのと同じ、針がねに紙が貼られたしゃもじのようなものを手渡され、修二は真剣にプールの中を覗き込んだ。


形も色も大きさも様々で、自由気ままにプカプカと浮かんでいる所を見るとなんだかそれぞれが意思を持っているようにも見えた。


「がんばって!」


修二の真剣な目につられて思わずそう叫んでしまったあたし。

おじさんにポカンとした顔で見られて恥ずかしくなる。


「ふふっ。まっかせーなさーい」



あの昔話は本当だった。


あっという間にカップはボールでいっぱいになり、ふたつめに突入。


おじさんは焦ったように

「金はいらないから5個で勘弁してくれ!」

と直ぐさま交換条件を出してきた。


してやったり顔の修二を横目で見た時、この人はスーパーボールを掬うのが楽しいんじゃなくて店員を泣かせるのが好きなんだとあたしは確信し、


性格悪いなぁ…


なんて無意識に心の中で呟いていた。




「あ~おもろかった~!オッサンのあの顔!見た!?」

「可愛そうー…」


とか言いつつ肩を震わせながら笑いをこらえるのが精一杯のあたしもきっと修二と同罪だ。


「おもろい時は我慢せんと思い切りわらったらえーねん。損やで~」

「…そっか!」


修二の言葉に少し考え込んだ様子を見せてからあたしは大きく頷く。

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