Far near―忍愛―
「でもさ、いいのかよ?お前が帰らなかったら佐和子さん一人になっちゃうんだろ?お前のおじさん忙しそうだもんな」
「……………」
それに関しては、俺もどう答えていいのかわからなかった。
仕事が忙しいのは確かだろうけど、恐ろしく器量のいいあの人の事だ。
そんなそんな家に帰れないほど仕事に精を出すタイプじゃない。
恐らく飲み屋を渡り歩いて遊んでいるか、適当にひっかけた女とどうにかなっているかが実際の所だと思う。
佐和子もそれには気づいていて、よく俺の目を盗んでは一人で泣いたりしていた。
まぁ、本人は知られていないと思ってるんだろうけど。
「なぁ弘樹、お前だったら幸せになれないってわかってる相手と結婚するか?」
「…は?なにそれ。心理テスト?」
「いいから答えろよ」
「いや、しねぇだろ。普通」
「…だよなぁ」
わからないのは
なんであんなやつのプロポーズを佐和子が受けたのかって事。
寂しい思いをするのは目に見えてるのに。
「女ってわかんねー…」
「ゆっきーでも女で悩むことあるんだなぁ~」
「どういう意味だよ」
「いや~だって、大ていの女はゆっきーの誘い断らないっしょ~!老若男女問わず!」
「嬉しくねーよそれ!特に男!」
「俺より俺の家族に愛されてるもんな~」
何処か遠い目をしながら諦めたような口調で言う弘樹。
「んなことねーだろ」
「あるよ!お前がきた時のウチの女どもの猫のかぶり方!!」