Far near―忍愛―
「え……?」
俺は本当にその言葉の意味がわかんなくて、顔をしかめながら直ぐさま聞き返す。
「母親だと思わなくていいから…それでも、側にいてよ…独りは…嫌だよ…」
「…………」
弱々しく差し延べられた手は救いを求めるように俺に向けられたが
その手を取っていいものかどうか正直、躊躇っていた。
「俺、今までみたいに優しく出来る自信ないよ。好きな女が目の前にいたらキスだってしてぇし、ヤりてぇと思うし。きっとさーちゃんの事、傷つける」
手をのばせばそこにいるのに
そこには絶対的な距離がある。
それは
縮まることなく、永遠とも思われるほどにどこまでも、どこまでも続いているんだ。
気が狂いそうな程に…。
「いいよ…」
形のいい小さな唇が微かに震えてそう言った。
しかし俺にはそれが何に対してのいいよなのかがわからず、目を丸くしながらきょとんとしてしまう。
「二人だけの秘密…作っちゃおっか…」
……は?
俺は耳と言わず目といわず、今ここにある感覚という感覚全てを疑いたくなった。
それくらいらしくない彼女の言葉は信じられなかった、というか信じたくなかったのだ。