Far near―忍愛―


「ねぇ…このまま壊してもいい?」



誰かのものになるくらいなら


いっそこの手で

立ち上がれなくなるくらいにメチャクチャに傷つけてやりたい。


そして今日という日を一生忘れられなくなればいいんだ。


そうすれば俺は

あんたを支配出来る。


嫌うなら嫌えよ。
憎みたければ憎めばいい。


それでもあんたの記憶の一部に俺が刻まれるというのなら

俺は鬼にでも悪魔にでもなってやる。




「ぁ…ぅ……っ」


呼吸ができなくてだらし無くパクパク開いている佐和子の口角から飲み込めなかった唾が幾筋にもなって垂れると

流石に、これ以上はまずいと自粛して俺は少しだけ手の力を緩めてやる。


直後、待ってましたというように早く酸素を取り入れようと佐和子はヒーヒーと喉を鳴らして全身で呼吸をした。

涙やら唾液やらでぐちゃぐちゃになった顔も

普通なら引くんだろうけど、俺には愛しくて可愛くて仕方がなかった。




「好きだよ、佐和子…」




もう光りを失いかけている彼女の耳に、その言葉は届いたのかどうかはわからないけど。

それでも信じられないくらい自然に出た言葉だった。


言いたくても
ずっと言えなかった本当の気持ち。


ずいぶん遠回りしたけど

やっと…

伝えられた。




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