Far near―忍愛―
「…ごめん。何でもないから」


勢いで当たってしまった自分を反省して、佐和子の頭を撫でながら謝る。

そりゃ向こうにしてみたらどうしたんだろうと思うに決まってる。


伝えるつもりもない想い。

だけど

気づいて欲しいと
いつもどこかで思ってる。


そんなの俺のワガママだよな…。



「明日までに決めとけよ、行き先」

言いながら、ちゅっとおでこにキスを落とすと

「う、うん…」

佐和子は戸惑うみたいに目を泳がせた。



「おやすみ」



少しずつ

少しずつ


何かが回り始めてる気がした。


色々、限界だったのかもしれない。

想いを隠し通す事も

理性を保つのも。


「明日…晴れるといいな」

久々の一人きりの部屋は妙に冷たく淋しく感じて、少しでも気分を紛らわせようとボソリとそんな事を呟いてみても、頭の中は別の事を考えていて。


このまま、自分を偽り続けて本当の気持ちを隠したまま佐和子の側にいるのと

いっそ全てを吐き出して、やっと見つけた暖かい場所を自らで手放してしまうのと

どっちの方が辛いのかな。

天秤にかけたところで答えなんてみつからない疑問に悩みながら、せめて形だけでもと、俺は眠る事も許してくれない瞼をゆっくりと閉じるのだった。

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