サラリーマン讃歌
「いや。訳わかんないすよ。何で謝ってるんすか?」
「……梓ちゃん、最近、元気ないんだろ?」
梓の名前を聞くと、久保は寂しそうな表情をした。
「そうなんすよ。でも、何も教えてくれないんですよ……って、もしかして……梓と何かあったんすか?」
久保は俺が謝っている理由に気付いたのか、急に顔が険しくなった。
「……傷付けてしまったんだ。俺が大人気なかった……」
「どういう事ですか?」
久保は冷静さを保とうとするかの様に、殊更に静かな声で言葉を吐き出した。
俺は先日の喫茶店での出来事を、出来るだけ客観的に伝えた。
自分の感情などを入れてしまうと、言い訳じみて聞こえてしまうと思ったからだ。
「そりゃ、直哉が悪いよな」
話を聞き終えると、高嶋は溜息まじりに呆れたように言った。
「ああ……ただの八つ当たりだった」
俺は今更ながら、自分の子供っぽさに恥ずかしさと罪悪感を感じ、久保に合わす顔がなかった。
「だから、ちゃんと謝りたかったんだ。申し訳ない」
そう言うと、俺はテーブルの上に手をついて、再び久保に向かって頭を下げた。
そんな俺を隣りの席のOLらしき女達が、チラリと見て何やらコソコソと話をしている。