サラリーマン讃歌
「ううん、そんな事はいいの」
「えっ?」
梓が言葉を返してくれた事への驚きと、彼女の言葉の真意を計りかねた。
「やっぱり私にも責任はあるし、二人を傷つけてしまったのも事実だから」
「それは君の責任じゃないよ。フラれたのは俺に魅力がないだけだから」
「ううん。サクくんはたくさん良い所持ってるよ。クミちゃんも魅力感じてるもん」
梓はそう言うと、寂しそうに笑った。
「私が悩んでたのは、サクくんに怒ってた訳じゃないよ。そりゃ、ムカツキはしたけどね」
梓は軽く俺を睨むと、そのまま言葉を続けた。
「クミちゃんから聞いた話をサクくんに話した方がいいのか、それとも黙っておくべきなのかを悩んでたの」
梓はやや俯き加減に首を落としていたが、自分を落ち着けるように深く息を吸い込んだ。
「クミちゃんには黙ってて欲しいって言われてたんだけど、この前のサクくんの怒っりぷりを見て思ったの」
「何を?」
「この人は真剣にクミちゃんの事好きなんだなって」
改めて言われると結構恥ずかしいものだが、その気持ちに嘘はなかった。
俺は確かにクミちゃんを、いや一之瀬 空見子という女性を愛していた。