サラリーマン讃歌
「でも、何でそんな大変な時期に遊びに行ってくれたんだろう?」
壮絶に悩み苦しんだであろう四月の終わりに、つまりGWに何故梓との約束をキッチリ守ってくれたのか?
確かに不思議ではある。
「GW前のクミちゃんは確かに元気なかったからね。しつこいぐらいに遊びに誘ってもなかなか来てくれなかったし……」
その時期に一番近い存在であった梓が言う。
「で、あれが来てくれた唯一の一回」
「そうなんだ……」
「だから、タッちゃんやサクくんが居ることは、もちろん黙ってたんだけどね」
悪戯っぽく梓が微笑む。
「でもサクくん、クミちゃん言ってたよ」
「何を?」
「『サク君といる時だけが辛い現実を忘れられた』って。『サク君は私の安定剤だ』って」
「……そうか」
素直に嬉しかった俺は、また目頭が熱くなった。かなり涙腺が緩んでいるようだ。
「クミちゃんは気付いてないみたいだけど、たぶんクミちゃんも一目惚れだったんだよ」
「誰に?」
当たり前の事を言わせるなとばかりに、驚いた顔で梓が俺に向かって言う。
「サクくんに決まってるじゃん。じゃないと流石にそんな時期に人を好きになったりしないと思うもん。前から気になって人だからこそだよ」