サラリーマン讃歌
「だったら、嬉しいんだけどな」
心がチクリと痛んだのをおくびにも出さず、笑顔で俺は答えた。
「じゃ、駅まで一緒に帰ろう。私も用事あるから」
亜理砂が自分の荷物を持ち上げながら、俺に話しかけてくる。
「ああ」
俺は若干気のない返事をしたが、亜理砂は一切気にしていなかった。
「直哉は何処まで行くの?」
傘をさしながら駅に向かう道すがら、突然亜理砂が質問してきたが、その意味が俺には解らなかった。
「何処って……家に帰るんじゃん」
「え?何か用事があったんでしょ?」
そんな嘘をついていた事も忘れる程に、今の俺には余裕がないようだった。
「えっ……ああ……あれは嘘」
「えっ?そうなんだ……楽しくなかった?」
純粋な亜理砂は俺の方便を悪い意味にとらえているようで、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「いやいや、そうじゃないよ。ちょっと色々あってね」
慌てて俺が否定すると、亜理砂の顔の表情が一気に緩む。
「そうなんだ。まあ、人生色々ありますよねえ」
亜理砂が俺に微笑むとポンポンと肩を叩いてくる。