サラリーマン讃歌
「元気だせ、直哉」
亜理砂と話していると、俺の苦悩に満ちた暗い心も不思議と和んでくる。
多分、彼女のピュアな心に周りの人間もそれに感化されるのだろう。
暫く二人とも無言のまま歩いていたが、俺はふと亜理砂に尋ねた。
「もし……もしも、亜理砂に好きな人がいて、その人に知られたくない過去があったとしたら、やっぱりそれを隠す?」
「えっ……そうだなあ……やっぱり最初は隠すんじゃないかなあ。でも、私だったら時期をみて言うけどね」
「そうか……でも、もしその過去が相手を傷付けてしまうとしたら?」
「それでも言うよ。ありのままの私を見て欲しいから」
「……亜理砂らしいね」
俺は何故か寂しい気持ちになって、フッと小さく笑った。
その横顔を亜理砂が心配そうに見ていた。
「大丈夫?」
「……大丈夫」
当初、自分自身が何を聞きたかったのも忘れてしまい、既にどうでもよくなってきた。
その後は駅に着くまでの間、二人とも雨に濡れた足元を気にしながら無言のまま歩き続けた。
「じゃ、私反対方向だから」
駅に着いて改札を抜けると、階段が進行方向によって二手に別れていた。