サラリーマン讃歌
確かに体の関係を持ってしまったと云う一点を除いてしまうと、高嶋の言う通りだった。

「まあ、俺に言えない事もあるんだろうけどな」

「……すまん」

俺の様子を見てそう感じとったのか、俺の言葉を聞くと高嶋は小さく首を振った。

「何でもペラペラ喋る方がどうかしてるよ。……まあ、空見子ちゃんにフラれた時の言葉を考えれば、だいたい察しはつくけどな……」

高嶋はあの言葉を覚えていたようだ。暫く物思いに更ける様に無言の時間が続いた。

「で、何でそんな状況で直哉は悩んでるんだ!?」

煙草を吹かしていた高嶋が、突然険しい顔で尋ねてきた。

「え?決まってるだろ。俺が近くにいれば彼女は苦しむだろうし、その教師を告発すれば、それもまた彼女を苦しめてしまう。だから悩んでるんだ」

強い口調で尋ねてくる高嶋の意図が解らず、若干腹立たしさも含みながら言う。

「……馬鹿かお前」

「はっ?」

流石にこの言葉には俺もカチンときた。

「馬鹿とはなんだ?こっちは真剣に悩んでるんだ!」

俺は手に持っていたグラスをテーブルに叩きつけると、高嶋の顔を睨みつけた。

「お前、何で久保の彼女がその話をお前にしたと思ってんの?」

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