サラリーマン讃歌
「……まあな」
「なんだよ、そのシケた面は?めでてぇことじゃねえか」
高嶋は満面の笑みを浮かべながら、ジョッキに残っていたビールを飲み干した。
「まあ、そうなんだけど……俺もよくわからねえんだ」
「何が?」
「俺の気持ちが……」
「はっ?」
高嶋の表情が一変して怪訝な顔になった。
「好きなのかどうか……よく判らねえんだよ」
「よく判らねえって……好きなんだろ、その子のこと?気になるんだろ?」
さも理解出来ないと云う表情で、尋ねてきた。
「わかんねえ。まだ今日会ったばかりだし」
「はああ??」
妙に高い声になった高嶋は、間抜けな顔をしていた。
「今日会った、って……どういう事かな、桜井君?」
不思議そうな顔つきをしながら、怖々と尋ねてきた。
「今日会ったばかりなんだよ。てか、見たばかりなんだ。名前も知らないし、年齢もしらない。彼女の何も知らない」
恥ずかしさを誤魔化すように早口で喋る俺を、高嶋は口をパックリと開けたまま、俺の顔を見ている。
「……だから、よく判らねえんだ」
もう一度そう言うと、まだ半分以上ビールが残っている自分のジョッキを見つめた。