サラリーマン讃歌
得てして職場の人間関係などは、そんなものかもしれない。

田仲が俺の事を目の敵にしている様に思えた言動などは、俺の事を思ってくれていたからこその叱咤激励だったのだ。

今では一人の大切な友人として、たまに連絡などとっている。

そんな励ましを受けながら俺達は毎日、汗水を垂らして、前の会社にいた時の数倍働いた。

だが、苦痛ではなかった。

上から言われてやらされる仕事よりも、自ら目標を持ってやる仕事とでは、モチベーション自体が雲泥の差があった。

時間的にも、精神的にも、金銭的にも余裕はなかったが、俺達は互いに励ましあい、時には切磋琢磨しながら仕事を楽しんでいた。

久保はと云えば、俺達が辞職表を提出した時、「俺も一緒にやらせて下さい」と懇願されたのだが、社会に出て一年も経っていない未来ある若者を巻き込みたくはなかった。

立ち上げ時に固定給を渡せるほど俺達にも余裕はなかったし、自分の食い扶持を稼げるほど彼もまだ一人前ではなかった。

確かに可愛い後輩である久保を情の部分では連れていってあげたかったが、情だけでどうにかなるほど世間は甘くなかった。

その世間の厳しさは、俺達二人が嫌と言うほど味わっていたから。

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