サラリーマン讃歌

~猛稽古~

仕事で忙しい日々を過ごしながら、俺は劇団への参加も怠っていなかった。

今の俺にとってこの劇団は、仕事で溜まったストレスの良き発散場所だった。

男の役者は二人しかいないと云う事もあって、当時入団半年もしない俺も役者として、去年の十二月に一回目の舞台を踏んでいた。

今も二週間後に迫った公演へと向けて猛稽古中であった。

「直哉、何度言ったら解るんだ!そこはそうじゃねえだろ!」

元々大きい地声を更に張り上げて、俺はダメだしをされた。

「すいません」

普段は馬鹿を言い合ってる仲であっても、稽古中は一役者と演出家の関係だ。

稽古中の座長はかなりの鬼軍曹である。

愛の鞭である事は解っていても、泣き出してしまう女の子もいるほどだ。

しかも、あの熊の様な出立ちだ。
俺も初めて怒られた時はちょっと泣きそうになった。

「亜理砂、お前もだ!立ち位置が違うだろうが、馬鹿!!」

一番、座長に怒られる回数が多いのは断トツ亜理砂だろう。

しかし、根が純粋な亜理砂はその指摘を真摯に受け止め、改善する努力を怠らなかった。

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