サラリーマン讃歌

~密かな想い~



「何かあったのか?」

居酒屋に着いて、注文を済ませたところで、俺は亜理砂に尋ねた。

この忙しい時期にわざわざ誘うのは、何か理由があるに違いないと俺は踏んだのだ。

「うん……あのね……」

「どうした?」

珍しく何か言いにくそうにしている亜理砂を安心させる様に、俺は微笑みながら再度尋ねた。

「あの……直哉ってさ……今、楽しい?」

「ふぁ?何だよそれ?」

「え?……そのまんまだよ。今、楽しく暮らしてる?」

「楽しく暮らしてますよ。お陰様で」

亜理砂が何を言わんとしているのか意図するところは解らなかったが、俺は素直に答えた。

「そっか……ほら、直哉あれだったじゃん。劇団に入ってきた時期って何か辛そうな顔よくしてたから……」

「そうだっけ?」

確かにあの時は色々な事を悩んでいた。
仕事の事もそうであったし、空見子の事も……

「そうだよ。初めて会った時なんか病人みたいだったよ」

と、その時の光景を思い出したのか、笑いながら亜理砂が言ってきた。

俺に公演案内のチラシを渡してきたのが、亜理砂だった。

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