サラリーマン讃歌
あの時の俺は街を夢遊病者の様に、ただフラついていただけだったので、ある意味病人というのは間違っていない。

「病人は言い過ぎだろ」

事情を知らないはずの亜理砂に、適格な表現をされた俺は思わず苦笑した。

「言い過ぎじゃないもん。フラフラしてたもん」

子供っぽい亜理砂の言い方と、あの時の行動を思い出すと俺は笑うしかなかった。

「そうかもな」

その後、会話が途切れた。

亜理砂は烏龍茶を飲んだり、箸をいじったりして落ち着きがなかった。

いつもの亜理砂と様子が違うのは感じていたが、俺は静かに彼女が口を開くのを待った。

「……あのさ……今、好きな人いる?」

意を決した様に唐突に亜理砂が口を開いた。

「え?何で?」

彼女のストレートな質問にドギマギした。

「何でって……知りたいから」

亜理砂は俺の視線を避ける様に俯きながら言った。

「……いるよ」

俺は戸惑いながらもハッキリと答えた。

「……そっか」

何故か亜理砂は悲しそうな目をすると俯いた。

何故そんな事を聞くのか、何故悲しそうにするのか皆目検討が付かない俺は焦った。

「ど、どうしたの?」

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