サラリーマン讃歌
「細けえな、岡もっちは」
「俺のこだわりや。あれがちょうどええ甘さなんや」
四月だというのに鼻を脂でテカらせている岡本は、彼のトレードマークである大きめの眼鏡を、右手の人差し指一本で位置を調節しながら、蘊蓄くさく言った。
「はい、百二十円」
俺はそう言って、右手を岡本の方に差し出した。
「金とんのかい」
「だって岡もっちは三十路だから」
「意味わからんわ」
コテコテの関西弁で突っ込まれると何故か心地良くなってしまう。
笑いながら右手を微動だにさせずに差し出していると、岡本は俺の顔と右手を交互に見ていた。
「あ、そうや。金の代わりにええ事教えたるわ」
突然、何か思い付いた様な顔をしたかと思うと、俺の顔をにやけながら見てきた。
「何、どうしたの?そんな顔して?」
「直哉、朗報や」
「だから、何が?」
「お前のファンの子がおったんや。しかも、エラい別嬪さんやったで」
岡本はにやけたまま、片肘で俺を突ついてくる。
「俺のファン?」
「そう。直哉のファンや」
「よく解らないんだけど……」