サラリーマン讃歌
俺はにやけ面の岡本を見たまま、困惑気味に答えた。

「俺がチラシ配りしてる時にな、直哉の事訊いてきた子がおったんや」

「俺の事を?」

「そうや。去年、亜理砂が配ってた場所と同じとこで、今日俺もチラシ配ってたんや」

岡本は近くにあった椅子に腰掛けたると、俺に注目しろと言わんばかりに皆の顔を見渡した。

仕方なく近くにいた劇団員達は、岡本の方に体を向けた。

「そしたらな、渡したチラシをじっと見てる子がおったんや」

皆の注目が集まった事に気を良くしたのか、テーブルの上に置いてあったチラシを手にすると、岡本はわざわざそれを真似てみせた。

「だいたいが見もせずに鞄に入れるか、酷い奴なんか俺の目の前で捨てていきよる奴もおるからな」

「何かその子、去年の直哉みたいだね」

近くにいた亜理砂が小声で俺に話しかけてくる。岡本の話の腰を折らないように配慮したのかもしれない。

確かに去年の俺も亜理砂から手渡されたチラシをじっと見ていた様な気がする。

「そうだな」

俺も小声で亜理砂に答えた。

「だから、尚更じっとチラシを見てる子は目立ちよんねん」

岡本の演説は続いていた。

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