サラリーマン讃歌

~運命~

既に芝居が始まってから三十分程経過していた。

開演してからは、客席側には当然明かりが一切点いていないので、客席の様子はあまり判らない。

しかし、最前列となるとある程度舞台側の光が届いているので、そこに人が座っているかどうかの判断は十分についた。

……最前列のど真ん中の座席は、まだ空席だった。

座長の計らいでその座席には、段ボールを用いて即席で作られた《予約席》と書かれた立て札が置かれてあった。

俺は登場シーンはもちろんの事、出番がないシーンであっても、舞台の袖からチラチラとその座席を確認していた。

だが、それは空見子が来るかどうかの確認ではなく、一秒でも早く彼女の顔がみたいという気持ちからの確認であった。

開演前には空見子を見付けたという連絡は入らなかったが、俺は高嶋達を信じていた。

今回の芝居は主人公である俺が、前半部分で如何に冴えないサラリーマンであるかを客に印象づけるかで、ラストシーンの盛り上がり方が大きく変わってくる。

サラリーマンの成長具合を上手く伝えれば伝えられる程、観る側の感動も大きくなってくると俺は思っている。

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