サラリーマン讃歌
基本的にはコメディタッチに芝居は進んで行くのだが、ラストシーンは結構涙を誘うような演出だった。

対してヒロイン役である恭子は、前半部分で如何に外見だけが良い、高飛車で嫌な女を演じるかである。

その二人がお互い関わっていく中で、変わっていく姿もこの芝居のひとつの見せ所でもある。

「絶対に来るよ」

チラチラと舞台の端から座席を確認していると、俺の背後から小声で亜理砂が声をかけてくる。

「そうだな」

俺は座席に視線を向けたまま、振り返らずに言葉を返す。

自分の気持ちを押し殺して、俺を思いやってくれている亜理砂の優しさに心の中で感謝した。




芝居は順調に進み、二時間程あるこの芝居も、三分の二以上が過ぎようとしていた。

「どうして、あなたはいつもあんな言い方しか出来ないんですか?」

「仕方ないでしょ、私なんだから」

「全然理由になってない!俺は嫌なんです!周りの人間があなたの事を悪く言うのが!」

普段、感情を押さえて周りに合わせる事しかしなかったサラリーマンが、初めてヒロインに対して自分の感情を顕にするという場面だった。

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