サラリーマン讃歌
過去に色々あって、常に虚勢を張る事で自分自身を守り続けてきたヒロインが、サラリーマンの真っ直ぐな気持ちに打たれて、変わっていくきっかけにもなる重要な場面でもあった。

そんなシーンを舞台で演じてるところではあったが、セリフがないところで、例の座席を眼球だけを動かしてチラリと見遣る。

……未だに空席であった。

俺は開演直前に裏方の子に俺の携帯を渡すと、高嶋達から連絡が入れば、直ぐに俺に知らせてくれとも頼んでいたが、まだ連絡はない。

芝居の進み具合でだいたいの時間は予測出来たので、流石に俺も焦りを感じ始めていた。

もしかしたら、高嶋達は空見子と会えなかったのではという不安が頭を過る。

空見子が七時台の新幹線を予約したと言っていたので、時刻表で確認してみると、上下線とも約十分おきに発着していた。

そして、上り線は七時五十二分、下り線は七時四十九分が七時台の最終時刻であった。

その最終時刻を考えると、駅からこの会場まで車で約三十分くらいなので、今のシーンくらいには、こちらに到着していてもおかしくなかった。

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